肝硬変患者の集中治療におけるバソプレシン(ピトレシン)の使用
肝硬変患者の集中治療において、バソプレシン(ピトレシン)は心血管虚血のリスクが高く、現在は推奨されません。ノルエピネフリンが第一選択の昇圧剤であり、バソプレシンは第二選択薬として追加する場合のみ使用すべきです。1
集中治療における昇圧剤の選択
第一選択:ノルエピネフリン
肝硬変患者のショック状態では、ノルエピネフリン(0.01-0.5 μg/kg/分)が第一選択の昇圧剤として推奨されています1。目標平均動脈圧(MAP)は65 mmHg以上を維持することが推奨されますが、個々の臓器灌流状態(意識状態、毛細血管再充満時間、尿量、四肢灌流、乳酸値)に基づいて調整すべきです1。
バソプレシンの位置づけ
バソプレシンは第二選択薬として、ノルエピネフリンに追加する形でのみ使用が推奨されます1。これは一般的な敗血症性ショックのガイドライン(Surviving Sepsis Campaign)に基づいていますが、肝硬変患者特有のエビデンスは限られています1。
バソプレシンの重大な問題点
心血管系の有害事象
バソプレシンは心血管虚血のリスクが高く、肝硬変患者では特に危険です2。2021年のメタアナリシスでは、テルリプレシン(バソプレシンアナログ)またはバソプレシンの使用により、オクトレオチドやソマトスタチンと比較して有害事象が2.39倍増加しました2。特に以下の有害事象が顕著に増加します:
肝硬変患者における異常な反応
肝硬変患者では、バソプレシンによる昇圧効果が異常に持続します3。健常者では30分後に血圧が基準値に戻るのに対し、肝硬変患者では平均動脈圧と末梢血管抵抗が有意に高いままです3。これは交感神経緊張の異常な持続によるもので、臓器虚血のリスクを高めます。
肝硬変特有の適応症での使用
静脈瘤出血
静脈瘤出血の管理では、オクトレオチドが安全性プロファイルに基づき第一選択です2。バソプレシンは心血管有害事象のリスクが高いため、もはや推奨されません2。
肝腎症候群(HRS-AKI)
肝腎症候群の治療では、テルリプレシン(バソプレシンアナログ)がノルエピネフリンとともに使用されますが、これはショックがない状態での使用に限られます1。ショックを伴うAKIでは、ノルエピネフリンが第一選択です1。
重要な注意点
禁忌と慎重投与
バソプレシン/テルリプレシンは以下の状態では禁忌です1:
- 進行中の冠動脈虚血
- 末梢血管虚血
- 腸管虚血
- 低酸素血症または呼吸症状の悪化
- 既知の心不全
- 基礎呼吸器疾患(特にACLF-3の患者)
モニタリング
バソプレシンを使用する場合は、以下を厳密にモニタリングする必要があります:
実臨床での推奨アルゴリズム
- 初期昇圧剤:ノルエピネフリンを開始(0.01-0.5 μg/kg/分)1
- 目標MAP:65 mmHg以上を維持、臓器灌流を評価1
- 反応不良時:バソプレシンを第二選択薬として追加を検討(ただし禁忌がないことを確認)1
- 難治性ショック:ヒドロコルチゾン(50 mg静注6時間毎または200 mg持続投与)を追加1
結論として、肝硬変患者の集中治療において、バソプレシン(ピトレシン)は単独での使用は推奨されず、ノルエピネフリンが第一選択です。バソプレシンは第二選択薬として慎重に使用する場合のみ考慮されます。1