脳症・脳炎の診断検査アプローチ
脳症または脳炎が疑われる場合、髄液検査(腰椎穿刺)が診断の中核となり、これに加えてMRI画像検査とEEG(脳波検査)を実施すべきです。1
必須の初期検査
1. 髄液検査(CSF検査)- 最優先
髄液検査は診断の要であり、可能な限り20cc以上採取し、5-10ccは凍結保存します1。以下を必ず実施:
- 開放圧、白血球数(分画含む)、赤血球数、蛋白、糖
- グラム染色と細菌培養
- HSV-1/2 PCR(最も重要な治療可能な原因)1
重要な注意点: 髄液細胞増多(≥5 WBC/mm³)は脳炎を示唆しますが、免疫不全患者や感染初期では細胞数が正常のこともあります1。細胞増多がないからといって脳炎を除外してはいけません。
2. 神経画像検査
MRIが第一選択です。CTスキャンよりも明らかに優れており、病原体の特定や自己免疫現象の示唆となる炎症の局在を明らかにできます1。
- MRIは病因の特定に役立ち、HSV-1では側頭葉病変などの特徴的パターンを示します
- CTは主に腰椎穿刺の安全性評価と、くも膜下出血などの鑑別診断に有用1
3. 脳波検査(EEG)
脳波は非特異的な全般性徐波から特異的パターンまで様々です1:
- HSV-1では側頭葉の反復性鋭波複合波や周期性片側性てんかん様放電
- 臨床的に明らかでない発作活動(潜在性発作)を同定可能
- 意識障害の原因としててんかん様放電を検出
病原体特異的検査の優先順位
すべての患者で実施すべき検査1:
髄液検査:
- HSV-1/2 PCR(治療可能で最も重要)
- VZV PCR
- エンテロウイルス PCR
- 結核検査(抗酸菌塗抹、培養、PCR)
- 真菌検査(地域・渡航歴に応じて)
血清検査:
- HIV抗体
- 梅毒検査(VDRL/RPR)
疫学的リスク因子に基づく追加検査1:
- アルボウイルス検査:地域特異的(血清・髄液のIgG/IgM)
- ダニ媒介疾患:ボレリア、エーリキア、リケッチアなど
- 狂犬病検査:曝露歴がある場合
- 呼吸器ウイルス:インフルエンザA/B(流行期)、その他
特定の臨床状況での検査:
- 免疫不全患者:CMV、EBV、HHV-6、トキソプラズマ、真菌検査を追加
- 脳梗塞・出血所見:結核、真菌、呼吸器ウイルス検査を考慮1
- 辺縁系脳炎の特徴:自己免疫性脳炎の抗体検査(VGKC、NMDAR、GAD、AMPA受容体など)1
診断精度を高める臨床的特徴
脳症患者において脳炎を示唆する所見の組み合わせ2:
- 発熱 + 悪心 + 低ESR(<17 mm/hr)の三徴:AUC 0.85
- これに中等度の髄液細胞増多(5-100×10⁶/L)が加わると:AUC 0.90
その他の支持的所見:性格変化、局所神経症状、最近の渡航歴2
重要な落とし穴
- 髄液細胞数が正常でも脳炎を除外しない:特に免疫不全患者や感染初期1
- 発熱がなくても脳炎の可能性あり:免疫抑制患者では発熱を呈さないことがある1
- 血液混入時の補正式:True CSF WBC = actual CSF WBC - (WBC in blood × RBC in CSF)/RBC in blood 1
- 確定診断率は約50%:包括的検査を行っても病原体が同定されるのは約半数3
新しい診断技術
次世代シーケンシングメタゲノミクスやPhage ImmunoPrecipitation Sequencingなどの新技術は診断率向上の可能性がありますが、現時点では複雑な解析、長いターンアラウンドタイム、高コストのため日常診療には適していません3。