脳炎の鑑別診断と治療
各脳炎の鑑別には、臨床症状、髄液検査、MRI所見、特異的抗体検査を組み合わせた系統的アプローチが必要であり、単純ヘルペス脳炎が疑われる場合は診断確定前に直ちにアシクロビル投与を開始すべきです。1
単純ヘルペス脳炎(HSE)
鑑別診断
治療
- 第一選択: アシクロビル静注(10mg/kg、8時間毎、14-21日間)2, 3
- 治療開始のタイミング: HSE疑いの時点で直ちに開始し、診断確定を待たない3
- アシクロビル耐性の場合: ホスカルネットの追加を検討4
重要な合併症
- 自己免疫性脳炎(特に抗NMDA受容体脳炎): HSE後約30%の患者で神経学的再発が発生4
非ヘルペス性ウイルス性脳炎
鑑別診断
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)
エンテロウイルス(EV)
エプスタイン・バーウイルス(EBV)
治療
自己免疫性辺縁系脳炎(特に抗NMDA受容体脳炎)
鑑別診断
- 抗体検査: 髄液または血清で神経細胞表面・シナプス抗体を検査1, 6
- 臨床症状: 精神症状、けいれん、不随意運動、自律神経障害、意識障害7
- MRI: 辺縁系(海馬、扁桃体)の病変7
- 髄液: 軽度のリンパ球増多、蛋白上昇の可能性があるが、髄腔内オリゴクローナルバンドは通常陰性8
治療
第一選択療法(回答者の84%が選択)6
- コルチコステロイド単独、または以下との併用:
- 免疫グロブリン静注(IVIG)
- 血漿交換
第二選択療法への移行基準6
- 回答者の50%: 複数の第一選択療法に反応がない場合
- 回答者の32%: 1つの第一選択療法に反応がない場合
第二選択療法6
- リツキシマブ(回答者の80%が選択)
- シクロホスファミド(回答者の10%)
橋本脳症
鑑別診断
- 抗甲状腺抗体: 抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体の上昇
- 甲状腺機能は正常のことが多い
- 他の原因の除外診断が重要
- 臨床症状: 意識障害、けいれん、精神症状、認知機能障害
治療
- 第一選択: 高用量コルチコステロイド
- 反応不良例: IVIG、血漿交換
- 維持療法として免疫抑制剤を考慮
神経ベーチェト病
鑑別診断
- 臨床診断: ベーチェト病の診断基準を満たす
- 口腔内潰瘍(必須)
- 皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍
- MRI: 脳幹病変(特に橋・中脳)が特徴的
- 髄液: リンパ球増多、蛋白上昇、IL-6上昇
- 神経症状: 脳幹症状、髄膜炎、精神症状
治療
- 急性期: 高用量コルチコステロイド
- 維持療法:
- コルヒチン
- アザチオプリン
- シクロスポリン
- 難治例では抗TNF-α製剤(インフリキシマブ)
急性散在性脳脊髄炎(ADEM)
鑑別診断
- 臨床特徴: 急性の多巣性神経症状と脳症1, 8
- MRI: 可逆性の境界不明瞭な白質病変8
- 髄液: 軽度のリンパ球増多、蛋白上昇8
- 髄腔内オリゴクローナルバンド陰性が一般的8
- 抗MOG抗体: 患者の60%で陽性7
- 多発性硬化症との鑑別: ADEMは通常単相性8
治療
鑑別の実践的アプローチ
初期評価で必須の検査1
- MRI(造影含む)
- 脳波
- 腰椎穿刺(禁忌がない限り)
髄液検査の優先順位1
- HSV DNA PCR(最優先)
- VZV DNA PCRとVZV抗体
- エンテロウイルスPCR
- 自己免疫性脳炎抗体パネル
- HSE疑いの場合: 診断確定前にアシクロビル開始
- 自己免疫性脳炎疑いの場合: 第一選択免疫療法を早期開始
- 抗体結果を待たずに臨床診断で治療開始を判断6