ヘルペス脳炎で細胞数増多しないことはある
はい、ヘルペス脳炎(HSE)において髄液細胞数増多が認められないことは十分にあり得ます。
疫学的データ
最新の大規模研究1によると、HSV-1脳炎患者の23.7%(76例中18例)が初回腰椎穿刺時に髄液細胞数増多(≥5個/μL)を示しませんでした。全脳炎患者では25.3%が細胞数増多を欠いていました。
ガイドラインの見解
国際脳炎コンソーシアムのコンセンサスステートメント2は明確に述べています:
- 髄液細胞数増多の欠如は脳炎を除外しない
- 特に以下の状況で細胞数増多が認められないことがある:
- 免疫抑制患者
- 感染早期
- 髄液細胞数増多を≥5 WBC/mm³と定義(感度を確保するため)
米国感染症学会ガイドライン3も同様に、髄液中のWBC<10個/mm³がHSV PCR陰性と関連することを指摘していますが、これは診断を除外する根拠にはなりません。
臨床的に重要な状況
免疫抑制状態
- ステロイド治療中の患者4では、水疱性類天疱瘡治療中にHSE発症し、経過中一度も細胞数増多を示さなかった症例が報告されています
- この症例では髄液細胞数4/mm³でしたが、HSV1-DNA PCRが陽性でした
診断への影響
最も懸念すべき点は、細胞数増多がない場合、アシクロビル投与率が有意に低下することです1:
- 細胞数増多なし:47.7%
- 細胞数増多あり:71.1%(p<0.001)
しかし、細胞数増多の有無は死亡率や入院期間とは関連していませんでした1。
診断アプローチ
画像所見を優先する
複数の症例報告5, 6, 7で、髄液が正常でもMRI所見が典型的(側頭葉、海馬、島皮質の異常信号)であればHSEと診断可能であることが示されています。
PCR検査の重要性
臨床的落とし穴
- 細胞数増多がないからといってアシクロビル投与を遅らせてはいけません1
- 免疫抑制患者では特に注意が必要2, 4
- 発熱が遅れて出現する場合もある5(入院4日目に発熱した症例)
- 初回画像検査が正常でも、フォローアップ画像で異常が明らかになることがある5
治療開始の判断
臨床的にHSEが疑われる場合(意識障害、痙攣、側頭葉症状)、髄液細胞数が正常でも直ちにアシクロビル投与を開始すべきです3, 1。早期治療が予後を劇的に改善するため、診断確定を待つべきではありません。
特に免疫抑制療法開始前には、髄液検査とMRIのフォローアップを慎重に行い、HSEを除外することが重要です5。